妊娠中にしっておきたい母乳の秘訣


 

 妊娠中に知っておきたい母乳のお話を、

ダイジェストでお伝えします。

テーマは下記の5つです。

 

・母乳育児の現状 厚生労働省のガイド

・母乳のメリット

・母乳が作られるしくみについて

WHOの母乳育児がうまくいく10のこと

・母乳育児に必要なスキル

●母乳育児の現状 厚生労働省のガイド

 

 近年、以前よりもみなさんの母乳に対する意識が高まっており、母乳率は徐々に上がってきています。

 

上記の図1は、生後1ヶ月と3ヶ月の、赤ちゃんへの栄養方法の割合の推移を示しています。

徐々に「人工栄養のみ」が減っているのが分かります。

 

さらに厚生労働省のデータでは、2015年には母乳で育てようという方がより増えており、

1ヶ月の母乳栄養は51%、混合栄養は45%。3ヶ月では母乳栄養55%、混合栄養35

となっています。

 

現在、WHOが全世界へ母乳を推奨しているのはなぜでしょうか。

 

それは、母乳栄養はお母さんにも赤ちゃんも多大なメリットがあるからです。

 

●母乳のメリット

 

母乳育児のメリットとしては、下記のことが挙げられます。

 

<お母さんへの健康効果>

 

☆産後出血   ⇓

☆乳がん    ⇓

☆卵巣がん   ⇓

☆2型糖尿病  ⇓

☆産後うつ   ⇓

☆体重変化   ⇓

☆メタボリック症候群 関節リウマチ 高血圧 高脂血症 ⇓

 

☆無月経の継続

 

 

<罹患率低下をはじめとした、赤ちゃんへの効果>

 

☆感染症(敗血症・髄膜炎・肺炎・下痢・麻疹・マラリア等) ⇓ 

☆中耳炎 ⇓   

☆気道感染症 ⇓

☆下痢 ⇓

☆アレルギ-性疾患  ⇓   

☆炎症性腸疾患 ⇓

☆肥満・糖尿病・白血病・リンパ腫 ⇓

☆乳幼児突然死症候群  ⇓

 

☆認知能力 ⇑

☆神経学的発達(IQ) ⇑

 

 

母乳にはこれらの様々なメリットがあるため、WHO6ヶ月は母乳だけで育てることを推奨しています。

 

その目標に向かって、世界レベルで母乳率がレベルアップすると、

 

母乳育児で守れる命は年間82万人あり、

母乳育児をしないことによる経済的損失は30兆円もあると言われています。

 

 

そして、母乳育児の効果は、赤ちゃんが「母乳を飲む量」と「期間の長さ」に相関していきます。

 

それは混合栄養であっても、同じことです。

 

 

●母乳が作られるしくみについて

 

 

母乳を作るもとは血液ですが、母乳の分泌をコントロールしているのはホルモンです。

 

母乳分泌にはたくさんのホルモンが影響していますが、上の図は主になるホルモンを示しています。

赤い線は妊娠を継続させるホルモン「HPL」、
青い線は母乳を作り出すホルモン「プロラクチン」の推移です。

 

母乳にはホルモンの働きが大きく関わっており、このホルモンの働きを知っておくと
産後どのように過ごすと母乳がより作られるかが分かります。

 

この表からわかる重要なポイントは、下記の4つです。

 

☆赤ちゃんが生まれて胎盤が外に出ると、すぐにHPLは急降下していきます。
☆HPLが下がると、それを合図に待機していたプロラクチンが母乳を作りはじめます。
☆ですが、プロラクチンは授乳をしなければ、1週間で妊娠前の値まで下がってしまいます。
☆つまり、早い段階から赤ちゃんが欲しがるままによく吸ってもらうことが、母乳を作り続ける一番の秘訣です。

 

また、母乳を貯めておくと、これ以上作られると破裂しちゃうからいらないよ~というサインが脳に送られ、ホルモン値は下がり始めます。 ですので、母乳が溜まってから授乳をするという方もいらっしゃいますが、溜まるのを待つのではなく、常に循環するように飲んでもらうことが非常に大切なのです。

 


●WHOの母乳育児がうまくいく10のこと

 

 WHOは母乳育児を行う指標として下記の10項目を挙げております。

 

1a. 「母乳代用品のマーケティングに関する国際規準」と世界保健総会の関連決議を完全に順守する。 
1b.  乳児栄養の方針を文書にしスタッフと親にもれなく伝える。
1c.  継続したモニタリングとデータ管理システムを確立する。
2.   スタッフが母乳育児を支援するための十分な知識、能力、スキルを持つようにする。 
3.   母乳育児の重要性とその方法について、妊娠中の女性およびその家族と話し合う。
4.   出産直後からさえぎられることのない肌と肌との触れ合い(早期母子接触)ができるように、
  出産後できるだけ早く母乳育児を開始できるように母親を支援する。
5.   母親が母乳育児を開始し、継続できるように、また、よくある困難に対処できるように支援する。
6.   医学的に適応のある場合を除いて、母乳で育てられている新生児に母乳以外の飲食物を与えない。
7.   母親と赤ちゃんがそのまま一緒にいられるよう、24時間母子同室を実践する。 
8.   赤ちゃんの欲しがるサインを認識しそれに応えるよう、母親を支援する。
9.   哺乳びん、人工乳首、おしゃぶりの使用とリスクについて、母親と十分話し合う。 
10. 親と赤ちゃんが継続的な支援とケアをタイムリーに受けられるよう、退院時に調整する。 

 

 

この10項目は医療スタッフに向けて示されているものですが、
入院中のお母さん方にも知っていただきたい、とても大切な3項目を赤字にしています。

 

この3項目の実践により母乳育児が増加しているというデータを、厚生労働省が示しています。(下図)
 
このデータからも、赤字の3項目は母乳育児を継続する大切なポイントと言えそうです。

 

 

●母乳育児に必要なスキル


 母乳は出せば出した分だけ作られるというしくみになっています。

 

そして母乳を出すには、前述のホルモン分泌のしくみからしても、
産後入院中の期間がとても大切だということを教えてくれています。

 

授乳ができない時には、搾乳が必ず必要です。

 

そうして母乳がしっかり出るようにしておくと、
赤ちゃんが飲めるようになった後で、母乳育児が継続できるからです。

 

また、赤ちゃんの「抱き方、含ませ方」も同じように大切です。

 

「抱き方、含ませ方」は、赤ちゃんとお母さんの数だけあり、

このやり方じゃないといけないわけではありません。

 

横抱き、フットボール抱き、縦抱きなど色々とあります。

また、授乳枕を使った方がやりやすい方、やりにくい方、様々です。

 

是非入院中に「抱き方、含ませ方」を練習しましょう。


赤ちゃんが飲みやすいように練習するということが一番です。

 

また、ちゃんと飲めない場合は、刺激不足にならないように、「搾乳」のやり方を教えてもらいましょう。

 

妊娠中の今できることは、36週を超えてから、3分ずつ程度の短時間で、

乳首や乳輪をオイル等で優しくマッサージをしてみましょう。

 

ゴミをとる程度でも構いません。痛くない程度でやってみて下さい。

 

赤ちゃんとの出会いを楽しみに待っていて下さいね。

 

 

 

参照資料

 厚生労働省 授乳・離乳支援ガイド

WHO/UNICEF 母乳育児がうまくいくための10のステップ